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東京地方裁判所 平成3年(ワ)11465号 判決

原告

金貴順

金景順

金小順

右原告ら訴訟代理人弁護士

宮田信男

光前幸一

吉ケ江治道

小山達也

被告

右代表者法務大臣

前田勲男

右指定代理人

德田薫

外三名

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告は、原告らに対し、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、産経新聞、北海道新聞及び西日本新聞の各朝刊全国版の下段広告欄に、別紙記載の謝罪広告を、見出しは新聞明朝体2.5倍活字とし、宛名及び謝罪人「日本国」の部分は新聞明朝体二倍活字とし、その他は新聞明朝体1.5倍活字とする様式をもって各一回掲載せよ。

二  被告は、原告らに対し、それぞれ金三〇〇〇万円を支払え。

第二  事案の概要

本件は、太平洋戦争の終戦直後、樺太(現ロシア領サハリン)の敷香郡敷香町において、日本国の憲兵らにより、父親と兄弟をスパイ容疑で逮捕・連行・虐殺されたとして、原告らが、憲兵らの使用者である国に対し、民法又は国際法に基づいて、それぞれ慰謝料三〇〇〇万円の損害賠償と謝罪広告による名誉の回復とを請求する事案である。

一  請求原因

1  原因らは、いずれも大韓民国国民であるが、金慶白(以下「慶白」という。)の子であり、原告金貴順は、金貞大(以下「貞大」という。)の姉であり、原告金景順及び原告金小順は、貞大の妹である。

2  一九四五年(昭和二〇年)八月一七日午前九時ころ、当時の樺太敷香郡敷香町上敷香南本町通一丁目所在の慶白宅を、日本国の氏名不詳の憲兵一名とそれに率いられた警察官数名が訪れた。右憲兵は、家の中に向かって「スパイ御大出てこい。」と大声で怒鳴り、玄関口に出た慶白に対して、「おい、お前はスパイだ。お前と息子にちょっと聞きたいことがあるから憲兵隊まで来い。」などと慶白らをスパイ容疑で取調べる旨を告げて慶白を逮捕し、また、警察官が家の中に入り込んで、貞大を逮捕し、両名を憲兵分隊へと連行した上、その後、上敷香警察官派出所内へ移監した。そして、日本国の氏名不詳の憲兵及び警察官が、同日午後二時以降翌一八日早朝までの間に、慶白及び貞大を右派出所内の留置房から別室に連れ出して、ピストルで射殺し、一八日午前、警察官が両名の死体を内部に残したまま派出所に放火した。

3  右憲兵らの行為(以下「本件行為」という。)により、原告らは、精神的苦痛を強いられるとともに、スパイの家族であるとの評価を受け、その名誉を毀損された。

4  よって、原告らは、被告に対し、民法七一五条一項本文、七一〇条及び七二三条又は国際法上の損害賠償責任に基づき、それぞれ慰謝料三〇〇〇万円の支払と名誉回復のための謝罪広告の掲載を求める。

二  争点

1  民法の適用の有無

(一) 原告らの主張

(1) 本件行為は、旧憲法下におけるいわゆる権力的行為にあたるとしても、なお、民法の適用がある。

公務員が権力的公務の遂行により私人に損害を与えてもそれについて国家は責任を負わないとの旧憲法下での考え方は、実定法上の根拠を欠くもので、理論的な根拠もなく、当時の判例上も流動的なものであった。すなわち、判例は、国又は公共団体の営利を伴う私経済作用にかかわる損害については、早くから民法の適用を認めて国又は公共団体の賠償責任を肯定しており、いわゆる徳島市遊動円木事件(大審院大正五年六月一日判決・民録二二輯一〇八八頁)を転機に非権力的公行政的作用にかかわる損害についても国又は公共団体の賠償責任を肯定するようになっていたのである。このような根拠のない権力無答責のドグマに、現在の裁判所が拘束されるべきではなく、本件には民法の適用が認められるべきである。

(2) 仮に、旧憲法下において、権力的作用にかかわる損害につき国家は責任を負わないとの考え方が存在していたとしても、日本は、昭和二〇年八月一四日、ポツダム宣言を受諾し、これにより旧憲法の基本原理は変容したのであって(いわゆる八月革命説)、旧憲法下における天皇主権の原理との関係でしか理解できない右の考え方もその効力を失った。

本件行為は、ポツダム宣言受諾後の同月一七日ないし一八日に起こったもので、右の考え方は既に失効している時期であり、それに拘束される余地はなく、民法の適用が認められる。

(二) 被告の主張

(1) 旧憲法下において、いわゆる権力的行為については、公務員個人が民法上の不法行為責任を問われることがあるのは格別、国又は公共団体が民法上の不法行為責任を負うことは認められていなかった(いわゆる主権免責ないし国家無答責)。

これを本件についてみると、原告らが不法行為の内容であると主張する公務員の行為は、旧憲法下における行為であって、典型的な権力的行為であることから、被告は、それについて民法上の責任を負わない。

(2) いわゆる八月革命説は、旧憲法の天皇主権主義から現憲法の国民主権主義への変更(憲法制定権力の変更)を説明するための一種のフィクションにすぎず、ポツダム宣言の受諾によっても、旧憲法下の法律秩序ないし法体系が失われた訳ではなく、現実にも機能していたのであって、本件行為当時、右のいわゆる主権免責の考え方は失効していなかった。

2  民法七二四条後段の適用の有無

(一) 原告らの主張

(1) 民法七二四条後段については、これを消滅時効と解する方が、立法史、規定の文言に忠実であるし、同条前段の短期消滅時効制度の趣旨にも適合し、むしろ事案の個別性に応じた合理的かつ妥当な解決がはかれるのである。本件においては、消滅時効について被告による援用がないので、同条後段の適用はない。

(2) 仮に、民法七二四条後段が、除斥期間を定めたものであるとしても、本来的に当事者間の私的自治に委ねられるべき関係である以上、当事者間の利害調節のためには、当事者の援用ないしこれに類する何らかの意思表示が必要であると解すべきところ、本件においては、被告の援用等は存在しないから、同条後段の適用はない。

(3) 仮に、右援用が不要であるとしても、本件事案は、近時問題となっている日本のアジア近隣諸国民に対する戦争犯罪ないしその賠償問題の一環をなすというべきものであるところ、被告は、本件においても、他の戦後補償問題に関する多数の訴訟におけると同様、時効や除斥期間に関する主張をしていないことなどに照らせば、積極的に除斥期間による利益を放棄する意思を有していると認められる特段の事情がある。このような場合、裁判所は、除斥期間の規定を適用すべきでない。

(4) 仮に、右の特段の事情がないとしても、本件においては、原告側の事情として、当時は敗戦直後の混乱期で、原告らは若年であり具体的加害状況を知らなかったこと、原告らがサハリン在住人から本件の情報を得られるようになったのは旧ソ連の改革以後であったこと、原告らにとって、外国である日本で訴えを提起すること自体、物理的経済的かつ心理的に大きな困難があったこと等の事情から、原告らに二〇年の期間内に権利行使を期待できなかったものである。他方、被告側の事情として、本件は、故意による計画的殺人であり、その違法性は極めて高いものであるといえる。これら双方の事情を考慮すると、信義則ないし権利濫用の法理及びその背後にある正義公平の理念に照らして、除斥期間の規定を適用すべきではない。

(5) 本件において、被告は、国家としての真相追求・責任者処分という条理上の義務を果たさず放置してきており、原告らの精神的苦痛は、名誉侵害状態の継続・回復の困難化により日々継続・昂進されているのであって、原告らの損害賠償請求権の時効ないし除斥期間の起算点も日々更新されている。

(6) 名誉毀損の場合の名誉回復請求は、名誉という人格権に基づくものであり、侵害の継続・回復が認められる限り、時効ないし除斥期間の適用はないところ、本件において、原告らは、公衆の面前で、父と兄弟がスパイであると断定され、両人を逮捕・連行・虐殺されたものであることから、スパイの家族であると評価されたのであり、この名誉の侵害状態は、現在まで継続しているものであるから、原告らの名誉回復請求権に、時効ないし除斥期間の規定の適用はない。

(二) 被告の主張

(1) 民法七二四条後段の規定は、不法行為によって発生した損害賠償請求権の除斥期間を定めたものである。なぜなら、同条は、不法行為をめぐる法律関係の速やかな確定を意図したもので、同条前段の三年の時効は損害及び加害者の認識という被害者の主観的な事情によってその完成が左右されるが、同条後段の二〇年の期間は被害者の認識のいかんを問わず一定の時の経過によって法律関係を確定させるため請求権の存続期間を画一的に定めたものと解するのが相当であるからである。したがって、除斥期間の経過による権利消滅の効果は法律上画一的に生ずるものであり、当事者の援用がなくても、右期間の経過により請求権は消滅したものと判断すべきであるし、当事者の意思いかんによって権利消滅の効果に消長が生じるような性質のものでもなく、信義則ないし権利濫用の法理の適用もあり得ないのである。

(2) 原告らが主張する不法行為は、昭和二〇年八月一七日から翌一八日に至る間に発生したとする慶白及び貞大に対する逮捕・連行・虐殺の事実であるから、一回的不法行為であることは明らかであり、右不法行為後に原告らが日々被っているとする精神的苦痛等については、不法行為成立後の因果の進行に属するものにすぎず、精神的苦痛が継続する限り侵害が継続していて、時効ないし除斥期間の起算点の更新が認められるということはない。

(3) 民法七二三条は、独自に名誉回復請求権なるものを発生させる権利根拠規定ではなく、不法行為に対する救済方法は金銭賠償によるという原則に対する例外として、名誉回復措置を採りうること、すなわち、損害の回復方法を定めたものにすぎず、不法行為に基づく請求の一実現手段であることは明らかであるから、名誉回復請求についても同法七二四条の適用が排除されるものではない。

3  国際法に基づく直接請求の可否

(一) 原告らの主張

(1) 陸戦ノ法規慣例ニ関スル条約(以下「ハーグ陸戦法規」という。)に附属する規則三〇条は、「現行中捕ヘラレタル間牒ハ先ツ裁判ニ付シタル上ニ非サレハ之ヲ罰スルコトヲ得ス」と規定しており、現行犯以外は、勿論解釈として裁判による真偽を確定しないまま処分することは許されない。また、同規則四六条は、「家族ノ名誉及権利、個人ノ生命……ノ遵行ハ之ヲ尊重セサルヘカラス」と規定しているところ、本件では、前記のとおり、憲兵らが、慶白及び貞大を、スパイ容疑で逮捕しその容疑を晴らす機会を与えないまま、虐殺したものであって、憲兵らの行為は、右各条項に違反する。

そして、ハーグ陸戦法規は、明文の規定(三条)をもって、その定める規定に違反した当事国に対し、国家責任として損害賠償義務を課している。

(2) 極東国際軍事裁判所条例五条C項は「人道に対する罪」として「戦前若しくは戦時中に全ての民間人に対して行われた殺人、殲滅、奴隷化、追放及びその他の非人道的行為」を例示し、これを戦争犯罪として刑罰の対象としている。ニュールンベルグ国際軍事裁判所条例六条C項は「人道に対する罪」を「戦前若しくは戦時中に全ての民間人に対して行われた殺人、奴隷化、追放及びその他非人道的行為、又は犯行地の国内法に抵触すると否とに関わらず、本裁判所の管轄に属する犯罪の遂行として、若しくは宗教的理由に基づく迫害行為」と規定し、ある団体ないし集団、ある人種ないし民族、宗教、政治のグループに属している人間であることを理由とする殺人等は「人道に対する罪」として戦争犯罪として刑罰の対象としている。

そして、「人道に対する罪」は、国際法上の犯罪として行為者個人にその責任が帰されるのが原則であるが、①行為が行為者個人の利益ではなく、専ら日本国のために実行されたものであり、②行為者が日本国の公務員として権力の発現として行われたものである場合には、国際法(違反)が国家責任を規程する法の性格からして日本国の国際法違反をも構成する。

本件では、前記のとおり、憲兵らが、朝鮮人に対する故なき差別感情に基づき、慶白および貞大を、スパイ容疑で逮捕し虐殺したものであり、かつ、右①②の場合にあたるから、被告には右国際法違反が存在する。

(3) 国家による国際人権法や人道法の義務に違反する行為があった場合には、その国家は、被害者らに対して、直接に損害賠償等の責任を負う、というのが確立された国際慣習法であるところ、本件では、同法違反が存在する。

(二) 被告の主張

(1) ハーグ陸戦法規は、国家責任として損害賠償義務を定めているといっても、交戦当事国の間の国家責任を明らかにしたものにすぎない。

(2) 「人道に対する罪」は、ニュールンベルグ国際軍事裁判所条例六条及び極東軍事裁判所条例五条の文言からすれば、明らかに違反行為者個人の犯罪構成要件を規定しているものである上、各条例の趣旨からしても、「人道に対する罪」に該当する行為は、行為者個人の国際刑事責任が追及されるという効果を有するにすぎず、その行為者個人の所属する国家に対する民事責任を負わせるものではない。

そして、「人道に対する罪」に該当する行為をした者を構成員とする国家について、その国家が当該行為によって被害を受けた個人に対して直接損害賠償責任に基づく金銭支払等をした例は存在しない。

(3) 国際慣習法とは、「法として認められた一般慣行の証拠としての国際慣習」(国際司法裁判所規程三八条)をいうのであるが、これが成立するためには、諸国家の行為の積み重ねを通じて一定の国際慣行(一般慣行)が成立していること及びそれを法的な義務として確信する諸国家の信念(法的確信)が存在することが必要であるが、国際人権法や人道法の義務に違反する行為によって被害を受けた個人に対し、違反行為者を構成員とする国家が直接損害賠償責任を負担するということについて、そのいずれの要件も認められないから、国際慣習法が存在するとはいえない。

第三  争点に対する判断

一  民法に基づく請求について

1  まず、争点2(民法七二四条後段の適用の有無)について判断する。

民法七二四条後段の規定は、不法行為によって発生した損害賠償請求権の除斥期間を定めたものと解するのが相当である。けだし、同条がその前段で三年の短期の時効について規定し、更に同条後段で二〇年の長期の時効を規定していると解することは、不法行為をめぐる法律関係の速やかな確定を意図する同条の規定の趣旨に沿わず、むしろ同条前段の三年の時効は損害及び加害者の認識という被害者側の主観的な事情によってその完成が左右されるが、同条後段の二〇年の期間は被害者側の認識のいかんを問わず一定の時の経過によって法律関係を確定させるため請求権の存続期間を画一的に定めたものと解するのが相当であるからである。

そして、裁判所は、二〇年の期間の経過により権利消滅の効果が法律上画一的に生ずるとの除斥期間の性質にかんがみ、請求権が除斥期間の経過により消滅した旨の主張がなくても、右期間の経過により請求権は消滅したものと判断すべきであり、したがって、信義則違反又は権利濫用の法理を適用する余地はないと解すべきである(最高裁判所平成元年一二月二一日判決・民集四三巻一二号二二〇九頁参照)。

これを本件についてみるに、原告らは、一九四五年(昭和二〇年)八月一七日から翌一八日の間に本件行為が行われたと主張するものであるところ、原告らが、右時点から二〇年以上経過した後の平成三年八月二〇日に本件訴訟を提起して損害賠償及び謝罪広告の掲載を求めたことは、記録上明らかであるから、仮に、原告ら主張の請求原因事実が認められ、これに民法の適用があるとしても、原告らの本件損害賠償請求権は、右二〇年の除斥期間が経過した時点で法律上当然に消滅したものといわざるを得ない。

そうである以上、原告らの主張する、民法七二四条後段を除斥期間と解するにしても、それが適用されるためには、援用ないしそれに類する当事者の何らかの意思表示が必要であるとの主張、仮に援用が不要であるとしても、被告において積極的に除斥期間による利益を放棄する意思を有していると認められる特段の事情があるときには、同条後段の規定の適用はないとの主張及び二〇年の期間内に訴訟提起等の権利行使を期待できなかった被害者側の事情と、不法行為の客観的ないし主観的態様等の違法性の程度という加害者側の事情とを考慮して、特段の事由があるときには信義則ないし権利濫用の法理及びその背後にある正義公平の理念に照らして、同条後段の規定を適用すべきではないとの主張は、いずれも採用することができない。

なお、原告らが主張する不法行為は、憲兵らが慶白及び貞大を逮捕・連行・殺害したとの事実であるから、一回的不法行為であることは明らかであり、右不法行為後も、原告らの精神的苦痛が継続しているからといって、権利の侵害が継続しているということはできないから、除斥期間の起算点が日々更新されるという道理はない。

また、民法七二三条は、不法行為に対する救済規定であり、金銭賠償の原則に対する例外として、名誉毀損の場合には、損害賠償に代え又はこれとともに名誉回復措置を請求できることを規定したものであるから、同条に基づく名誉回復請求権にも、同法七二四条の規定は当然に適用されると解すべく、その適用がないとする原告らの主張は、採用できない。

2  以上のとおりであるから、民法に基づく原告らの本件請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

二  国際法に基づく請求について

1  争点3(国際法に基づく直接請求の可否)について判断する。

ハーグ陸戦法規は、「前記規則ノ条項ニ違反シタル交戦当事者ハ損害アルトキハ之カ賠償ノ責ヲ負フヘキモノトス」と規定し(三条)、交戦当事者の損害賠償責任を明示するものであるが、これも、交戦当事国の間の国家責任を明らかにしたものにすぎず、国が交戦当事国の被害者個人に対して直接損害賠償責任を負う趣旨とは解せられない。また、ニュールンベルグ国際軍事裁判所条例六条及び極東軍事裁判所条例五条は、「人道に対する罪」として、一定の犯罪構成要件を規定しているが、これも、同罪に該当する行為があったときには、行為者個人の国際刑事責任が追及されるという効果を有するにすぎず、その行為者個人の所属する国家に対して、民事責任を負わせるものではない。

したがって、右各条項を根拠に、被告が原告らに対して、直接損害賠償責任を負うとする原告らの主張は理由がない。

2  ところで、国際慣習法とは、「法として認められた一般慣行の証拠としての国際慣習」(国際司法裁判所規程三八条)をいうと解すべきところ、これが成立するためには、諸国家の行為の積み重ねを通じて一定の国際慣行(一般慣行)が成立していること及びそれを法的な義務として確信する諸国家の信念(法的確信)が存在することが必要である。

原告らが主張する国際慣習法の成否についてみると、国家による国際人権法や人道法の義務に違反する行為があった場合に、その国家が被害者個人に対して、直接損害賠償の責任を負うとの一般慣行は未だ成立しているとはいえず、法的確信の存在も認められない。

したがって、原告らが主張する国際慣習法が成立していると認めることはできず、国際法に基づく原告らの本件請求もまた理由がない。

三  結論

よって、原告らの本件請求はいずれも理由がないからこれを棄却して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官萩尾保繁 裁判官浦木厚利 裁判官市川智子)

別紙謝罪文

日本国の憲兵及び警察官が、一九四五年八月一七日ころ、樺太敷香郡敷香町上敷香において、金貴順、金景順、金小順の実父(金慶白)と兄弟(金貞大)に対し、「朝鮮人、お前はスパイだ」等と罵声を浴びせながら上敷香警察官派出所に連行し、同所において同人等を虐殺したことにより、金貴順、金景順、金小順氏の名誉を著しく毀損したことを陳謝する。

謝罪人 日本国

金貴順殿

金景順殿

金小順殿

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